私が日本刺繍を始めたのは中学に入った時です。
それ以前、母から話には聞いていま した。
母は、自分が娘時代に刺繍をしたかったのですが、ちょうど学校で習えるという 時に戦争が始まってしまって、とてもそれどころではなかったのだそうです。だからい つか習いたいという気持ちと、また私にしてほしい気持ちとがずっとあったのでしょ う。私も手先の事をするのが小さい頃から好きでしたので中学に入ると迷いなく学校の繊維工芸部というクラブに入り刺繍を習いました。
これが私の今の仕事との出会い となりました。手仕事をされている大半の方々は代々おうちの仕事を継がれている場 合が多いので私の様な出会いは、異色かもしれません。
このように趣味として始めたも のですから、やり続けるのもやめるのも自由な訳です。但し今から30年近く前の事です から、情報も少なく先生や教室を探すのも大変でした。短大の頃に初めて見つけた教室 に母と一緒に入り趣味として続けていました。
 
 
短大を卒業し就職と言うときに、自分は 日本刺繍の職人として修行するべきか迷いましたがそこまでの決心はつかず、OLの道 を選んでしまいました。
その後も刺繍は習い事としてある程度続けながら、6年間 OL生 活をしましたが、だんだんマンネリ化していき、何か空虚な気持ちを持つ様になりまし た。
 
 
そんな頃、前々から習いたいと思っていた刺繍の先生に教えていただける機会がで き、あまり後先考えずに思い切って会社をやめ刺繍に専念する事にしました。
刺繍とい うのはどうしても時間のかかる事なので、フルタイムで仕事をするのは困難です。そこ で、いろいろなアルバイトをしながら好きな刺繍をするという生活が数年続きました。
その当時、出来れば刺繍の仕事につきたいと思っていましたがどのようにすれば仕事 が出来るのかわからず趣味の域を越える事が出来ない、いわば暗中模索といった状態 でした。
その後、ようやく下請けとして、刺繍の仕事をいただける様になりました。
図柄、技法、 色を指定されたとおりに刺していく仕事です。とても勉強になりましたが、このまま ずっとこの仕事をしていくのは、自分が目指していた事とは何か違うと思うようにな りはじめました。
自分のオリジナリテイーを生かした作品創りをしてみたい
そろそろ そんなことをしてもいいかなあと思い始めました。
 
 
実際に身に付けていただく方のご希望を直接うかがいながら、オルジナルの刺繍の作品 を創るには、独立し店舗を持つことが良いのではと考えました。
その為にお店経営の学校に通い準備を重ね、家族や友人の多大な協力を得て平成元年 に店を開店しました。
いろいろ模索しながらもはじめの志を忘れないよう無我夢中で 続けながら10年余り経ちました。
今、振り返ってみますとずいぶん回り道をした感もあ りますが、販売の仕事、事務の仕事などいろいろな仕事をしてきた事で商品創りに必要 な知識も得られ、よい経験になったと思います。
またいろいろな世界の人々とのつなが りも財産となりました。
ですから私にとっては、この大きな回り道が、結果的にとても ラッキーだったと思っています。
 

 

刺繍にこれまで愛着を感じてきたのは何故だろうかと、時々自問自答してみます。
細 かい仕事で、肩は凝り目は疲れ決して楽な仕事ではありません。
絹糸の持つ繊細さ、独特の光沢に魅せられてから約30年経ちます。 糸の引き具合、湿度 など取り扱いかたで簡単にのびたり、縮んだり、まるで絹に遊ばれているかの様で、
なかなか容赦はしてくれません。
この生きている絹に今度こそ、今度こそと挑戦をしてき たのでしょうか。満足のいく作品はめったに出来ませんが、いろいろ試行錯誤して創っ たものが出来上がった時の達成感はやはり物作りをしている人だけが味わえる特権だと思います。
10年前、初めて自分の創った物に対してお客様がお金を出して買って下さった時の感激は今も忘れられません。
その時の気持ちをいつも大切にしていきたいと思います。
そして手間ひまかけて創った物がお客様に気に入っていただけた時が、 やはりこの仕事をしていて本当に良かったと思う瞬間です。